アイドル、彼女が目指す輝きは~岸部彩華考
岸部彩華はスカウトを受けた際、このようなことを口にしている。「アイドルって、盛れる?」と。
アイドルとしてデビューしてからも「盛る」「盛れてる」「盛った」などといったキーワードは彼女の口から頻発するのだが、彼女にとって「盛れる」とはなんなのか。
スカウト当時のプロデューサーからの問いにはこう答えている。メイクしてもらったり~カワイイドレスを着たりして、キラキラしたり~(岸部彩華・デレステメモリアル1)
と。しかし、これでは「盛り」のイメージが少々掴みにくい。
そこで、彼女にとっての「盛り」とは何かを少し整理してみよう。
「盛る」と結びつきやすい文化圏、小悪魔agehaを読むような女性「age嬢」たちは、他人にみせるため自分をデフォルメすることを「盛る」と、呼んでいたという。
age嬢たちは努力して可愛くなる子が好きだという価値観を持っているらしく、それを鑑みると「かわいらしさを強調する」という文脈で、彼女たちは「盛り」という言葉を使っているのだと思われる。
岸部はage嬢らと近い感性を盛っているだろうということが、ゲーム内の描写からは窺える。
盛っちゃうよね~。盛ったほうがカワイイし~。ねぇ、どうかな~?(デレステ・岸部彩華(N)・ホーム画面タップ時)
に端的に表れているだろう。
この言葉から、彼女が「盛る」ことで魅力がアップするという考え方をしていることがはっきりと見て取れる。恐らく岸部にとっての「盛り」は、自分や周りを自分なりの文脈で可愛らしくすることなのだろう。
また、彼女は髪やメイクに限らず気分を盛ることがあるなど様々なものを「盛ろう」とするのだが、前述のことを踏まえると、プラスの方向に気持ちやモチベーションが上がるように行動することを「盛る」と彼女なりに定義をしているのだ。
岸部彩華が重視する「盛り」については見えてきた。では、彼女がアイドルとして活動するにあたり、どのようなアイドル像を目指しているのだろうか。
実は、岸部の真の初出といえるであろう、イベントのエリアボスとしての台詞でそれはハッキリと示されている。
「愛され体質」というものだ。
具体的に挙げると私とぉ~LIVEしてぇ~お客さんに愛された方が勝つってことでぇ~!(モバマス・アイドルサバイバル池袋エリア「岸部彩華」遭遇時)
というものなのだが、これはボスとしてプレイヤーを煽るための台詞というわけではない。
デビューしたての彼女の信頼を得るとアイドルってこんなスゴいお仕事だって思わなかったぁ~。もっと皆に愛されるように、一緒にがんばろぉ~ね、(プロデューサー)さん(モバマス・岸部彩華+・信頼度MAX)
と話すことから立場が立場だっただけで「愛されたい」ということは本心からだったのだ。
そしてもうひとつ、モバマスにおいて彼女が目指しているものを示唆するキーワードが散見される。それは、「オトナ」というワードだ。
シックでエレガントなドレスを着たときにちょっとオトナなあやか登場みたいなぁ? お子様には刺激的かもしれないけどぉ…大きいお友達に大人気かもぉ。でも(プロデューサー)さんのプロデュースならみんなから愛されちゃうかなぁって♪(モバマス・[リーブルパピヨン]岸部彩華+・アイドルコメント)
と言ってみたり、水着のお仕事であやか的にはオトナモード、かもぉ~(モバマス・[サマーシーズン]岸部彩華+・マイスタジオ)
と豊満と形容しても良いだろうボディを惜し気もなく魅せてみたりと、「オトナ」な自分をアピールすることがしばしばある。
実はこのキーワード、初出は岸部のカードからではない。共演したアイドルのひとりである三好紗南、彼女が岸部のことを彩華さん…あれがオトナの魅力…!(モバマス・[バレンタインパーティー]三好紗南+・お仕事)
と感心しているところがすべてのはじまりのようなのだ。
彼女と岸部の間に何があったのかは、とうとうモバマスにて描写されることはなかったので不明だが、このイベント以降「オトナ」「オトナっぽい」というキーワードが岸部がアイドルとしての自分を示す言葉として頻出するようになることを考えると、このことをきっかけに「オトナなアイドル」というものが、岸部の中で目標のイメージとして固まったのだと筆者は推測している。
これらを統合して推測すると、きっと岸部は「皆に愛されるオトナなアイドル」を目指しているのだろう。
ところでこのシンデレラガールズは、「オトナ」と「大人」をしっかりと書き分けているゲームである。
「大人」はアダルティであると同時に余裕を持ってそれを活かしている成人女性たちの姿、逆に「オトナ」は背伸びをした少しオマセな少女たちの姿として描いているようなのだ。
この辺りは『今すぐ使える! Cygames流、シナリオ“じゃない”ゲームテキストでプレイを盛り上げる鉄則(※外部サイト)』にて、コンセプトが「大人ぶりたいJK」だと明言されている速水奏の台詞にお祝いありがとう。これで私…近づいたのよね? 何って…(プロデューサー)さんを魅了するオトナの女性に。…なんて、冗談よ♪(モバマス・速水奏・2019年誕生日)
とあることが参考になる。
これを踏まえて岸部を考えてみると、彼女は「オトナ」な振る舞いをとする少女であり、「大人」にはまだなっていないのだということが見えてくる。
そして先述の「盛り」を加えてみると、彼女は「盛り」を通して「大人」になろうと日々努力を重ねている少女という岸部の輪郭が見えてくるのだ。
大人びたスタイルや容姿から忘れられがちであるが、岸部はまだ19歳なのである。
彼女の初出である2012年1月末当時は、成人していないアイドルであった。子供と大人の狭間の年齢で、「大人」を目指して「オトナ」な振る舞いをしようと「盛り」を武器に頑張る女の子として、彼女はキャラクターとしてのコンセプトが汲まれたアイドルなのかもしれない。
彼女が「オトナ」ではなく「大人」になる日を、筆者は現在も楽しみにしている。
(初出:2020年7月12日)
(改稿:2023年4月14日)
ハナイチゲこと龍紅花